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ぎりぎりセーフで駆け込んだ山手線車内は満員だった。その時、" いたこのいたろう" がどうのこうのと誰かが歌っているのが聞こえた。遠くの座席に座っているおじさんだとわかった。面白そうなので人混みを分け入っておじさんのもとへ進んでいった。まずは少し距離をおいて観察する。おじさんの年齢は五十くらい。ぼさぼさの髪にはフケらしきものがいっぱいだ。よれた茶色のシャツに紺の細身のズボン。そして何より目を引いたのが素足に健康サンダルをはいているところ。健康に気づかっている浮浪者なのだろうか。左手には飲み干した日本酒のカップを持っている。ほろ酔い気分で鼻歌を歌っており、気持ち良さそうだ。車内は混んでいるというのに、おじさんの周りだけは空いている。席の両隣もあいていれば、おじさんの前に立つ人もいない。あまりの露骨な避け方にかわいそうになり、私はおじさんの横に座ってみた。お酒と汗の混じったような妙なにおいがした。 「お、おねえちゃんも長くねえんだから、人生楽しんでおかなねえとな・・・」
大声で説教をされた。皆が私を白い目で見る。彼に反論するのも気が引けるので、ひたすらうなずいて彼の話に耳を傾けた。新宿から田町まで、およそ二十分間、彼の独演会は続いた。